せっかち歌仙 その28


<鳩時計の巻>


                茶目猫    長 者巻   紅 蓮     逐電   良流娯   晩 菊        


 

発句

襤褸市やふいに鳴り出す鳩時計  
茶目猫

脇句

金目鯛釣る浅し夢見し  
長者巻

第三

汽車にのる海辺の町をあとにして  
紅   蓮

口唇厚き老医師にあう  
逐   電

5(月)

有明の月に向かいて急ぐ道    

良流娯

早起き烏柿の梢に  
晩   菊

(初折裏)

黄金色敷き詰められし枯れ葉徑  

旅路の果ての共白髪なり  

いがぐりが領収書を取るかんざし屋  

10

よってらっしゃいとささやく声  

11

それではと暖簾をはねてカウンター  

12

喧嘩売れども笑顔返され    

13(月)

月涼し停戦中の老夫婦  

14

沈黙破る老鶯の声  

15

小説を地でいくようなニュースあり  

16

美しき朝足取り軽く  

17(花)

花曇り少女静かに発狂す  

18

春時雨呼ぶ柔らかな風  

(名残折表)

 

19

沈丁花匂いたつ朝晴れ晴れと 

20

見渡す限り人影のなく  

21

ホメロスが詩稿を母に誦んでやり  

22

テラか宇宙か放浪の旅  

23

風渡る枯れ野淋しき夕間暮れ  

24

待ち人も来て里春近し  

25

屋根裏へ箱階段の軋む音  

26

引出し奥に久美からの文   

27

終活に臨みて猶も忘れない  

28

5番のCD何枚ももち  

29(月)

人生の分岐に立ちて月仰ぐ  

30

揺れる心を撫でる秋風  

(名残折裏)

31

天の川地に千曲川里へ行く    

32

小諸の城あと枳殻の棘  

33

凡百の候補路地裏分け入って  

34

昔なじみのふいの訪れ  

35(花)

語り尽き送る門口花吹雪  

36

末永き縁願い果樹植う  

 


<2015 年2 月1 日〜3月31日>