居酒屋歌仙 その6      

春 霞 の 巻

 

乙亥睦 月初四  

於鷺沼 無袖庵

山八訪  多少艶  長者巻  銀次 郎    


 

発句

奥山のふもとたおやか春霞

山八訪

脇句

 雛は巣立ち田 園の里 

多少艶

第三

土地高く姫伴いて舞いもどる

 長 者巻

 停まるあてなく飲み歩きけり

銀次郎

5(月)

風涼し月がとっても青いから 

 遠回りして虫の音を聴く

(初折裏)

モーツァルト秋亮々と鳴り響き

 舌鼓の音詩心揺れる

美しき人の作りし手料理に 

10

 窓打ち煙る正月の雨

11

歌留多とりお手つきも楽 し達磨かな

12

 辛くも熱きシャドー愛戯

13(月)

河豚喰いて二人で歩く寒の月

14

 矢に毒塗り弓 引 絞る

15

ヒットマン男気に燃え晒 首

16

 あわれ関白秀次が妻妾

17(花)

振り抜けば戦後の戦士花と散る

18

 靴跡の中蒲公英が咲く

(名残折表)

 

19

草原の闇を引き裂く獅子の牙 

20

 虜囚の足を咬んでは舐める

21

苦しくも逃げる術なし寒稽古

22

 体育会系オスオスの仲

23

玉の汗風に流れる蛍かな

24

 宇治の川面にひかる浮舟

25

病葉を流してあやし ニューハーフ 

26

 イッヒリーベディッヒ オーミステイク

27

両性の曖昧模糊のいじら しさ

28

 煙霞三月故郷を離る

29(月)

億年前地と月別れ尚未練

30

 琥珀の中に生きる化石か

(名残折裏)

31

決意秘め一気に呷るウイスキー

32

 口から溢れる年越しの割 子

33

蟹床屋あわてふためくうさ ぎさん

34

 髪改めて帽子屋に寄る

35(花)

狂い舞う花びら受ける學の盃  

36

 五臓に沁み入る屠蘇のあじわい

 獅子舞も万歳も来ぬ年始 なれど睦月初四連 衆わが草庵に相集い歌仙春霞一巻をものしたれば主 人これを謹書す

無袖庵主