居酒屋歌仙 その3      

<の ん だ く れ>

 小六・長者巻・八 訪・銀次郎・英世・多少艶・森素緑・竹刀・槍鯛

 


長者巻の鎖骨骨折による入院に始まる

 

発句

気苦労の身に入むばか りしまひ風呂

小 六

脇句

 寝静まる家小窓に湯音

長者巻

第三

ハンケチのヘリオトロープ舞う春に

山八訪

 紫色の風吹き渡る

銀次郎

急流の緑に逆らう桃の花

英 世

 児がタオル投げる銭湯の壁

(初折裏)

子供 部屋夫婦寝室熱帯夜

 のどの渇きに互いに起きつ

嫁ぐ日を待つ人を想い コップ酒

10

 ライスシャワーを浴びて 輝く

11

東方に霞み消えゆくシル エット

12

 圧力の漏れに煙火止まらず

13(月)

焼け跡にいつしか昇る赤い月

 

14

 タ ラットダットウサギのダンス

 

15

デコルテに心ときめく円 舞曲

16

 手探りで行く双丘の道

17

虚と実の皮膜の間の青木舟

多少艶

18

 逆櫓めぐりて今 宵も談論

(名残折表)

19

酔いしれてたゆたう心からまわり

20

 闇夜を裏切るメリーゴーランド

21

多頭数着順のまま確定す

22

 ツバつけたってアテはずれ泣 く

23

三カ月なら理想的と云う 長者巻

森素緑

 

24

 年に一夜の結婚記念日

竹 刀

25

口だけは週に三度の森素緑

槍 鯛

26

 鍵の閉まった夜の法廷

27

思いどおり行かぬはこの世の定めなり

28

 チンギスハンの怒号轟く

29

江戸前のおまつり騒ぎ乗り合いて

30(月)

 欠けたる月にも他生の縁

(名残折裏)

31

しのびよる柔肌の罪意志をはぐ

32

 心欺く真夏の日焼け

33

さわやかにその日のまるとすぎてゆく

34

 渋谷のカラオケ軍艦マーチ

35(花)

花の露一戦の後匂い立つ

36

 満たされぬ夢精神こころを射る句

 

1994.9.2完>