居酒屋歌仙 その11 |
<初
孫 の 巻> |
少艶 紅蓮 山八 訪 良流娯 長者巻 銀次郎 |
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発句 |
初孫の笑顔涼やか衣がへ |
多少艶 |
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初孫はお 仕着せの病院着から自前 の産着に着替え今日退院。諺に「マゴにも衣装」というではないか。孫を迎える祖父も衣替え。 |
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脇句 |
薫風にのりうれしき便り |
紅 蓮 |
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初孫誕生 の喜ばしい知らせと共に、歌仙再開の嬉しい 便りがさわやかな風のように届けられた。 |
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第三 |
石地蔵赤いポストに寄り添いて |
山八訪 |
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田舎の路肩に古びた地蔵がある。
かたわらに鋳鉄製の古いポストが隣り合わせている。なかむつまじい様子 |
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4 |
そしらぬふりの曼珠沙華かな |
良流娯 |
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知らんぷりに見えるけど、心では何か声をかけたいと
思っている様子。 |
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5(月) |
恐ろしや悪魔に月 売る世紀末 |
少 |
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曼珠沙華(彼岸花)には毒があ
り、その色もどくどくしい。中秋名月も月食で欠け、不気味に赤銅色の光を放ったまま山の端に入った。 |
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6 |
蝗の群れにおののく我ら |
少 |
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21世紀は昆虫の天下か。 |
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(初折裏) |
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7 |
華やかなネクストワールド夢みて る |
良 |
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来世にか けます。一流のピアニス トかテニスプレイヤーになりたいものだ。 |
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8 |
明石蛸入り3ドルでどや |
長者巻 |
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近未来、日本はジパング州としてア
メリカに吸収合併される。その時には大阪弁が標準語になっている。たこ焼きの露天に書かれたキャッチコピー。 |
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9 |
荒くれた男に魅かれる女あり |
紅 |
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たこ焼きを売っているのは「ジャリ
ンコチエ」のお父さん。この荒っぽい男に、楚々としたチエのお母さんはなぜか惚れるのだ。 |
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10 |
ゴムまりの胸反り 返る腰 |
銀 |
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骨細ではあるが、出るべきところ
は出て、身体全体に弾力があって…。 |
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11 |
鮮やかな梅酢に染まる庭の笊 |
山 |
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いずれはウメボシばあさんになるの だ。 |
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12 |
竹林の闇風が解くかも |
長 |
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前句の 「庭の笊」は、庭の竹かご のことだろうか。だとしよう。だとすれば月を呼び寄せることにする。風が雲を払い、やがて月明かりが…。 |
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13(月) |
遙かなる月の道行くかぐや姫 |
紅 |
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明るさはしだいに増していき、月か
らの使者がやってきた。かぐや姫は天の羽衣をまとい、遠い月の都へと帰っていったのでした。 |
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14 |
秋刀魚焼きつつ帰り待つ夫 |
良 |
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留守番をしてくれた夫は秋刀魚を焼
きつつ待っていた。 |
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15 |
オーブンの汚れ落として煙草かな |
銀 |
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帰っ た来た妻
は喜ぶとおもいきや、台所の汚れを叱責する。人生とはうまくいかないもの。この夫は喫煙もとがめられるはず。 |
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16 |
流氷消え番外地発つ |
長 |
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全ての汚 れを落として網走を出所 する独りの男。娑婆での一服はうまい。誰の迎えもないが、春の兆しが祝福している。 |
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17(花) |
吾独り花前線にさからいて |
紅 |
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娑婆に出てきた男は、孤独を背負
い、しだいに北上する桜前線にさからって、流れていく。はたして、どこへ。 |
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18 |
十二単衣の黒髪や憂し |
少 |
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世は茶髪時代。時代に逆行する緑の
黒髪(これは死語か)はわずらわしい? 長期の流刑から今日へ帰っても、思う人は髪を切り落として仏門へ。 |
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(名残折表) |
19 |
後朝のみだれ臥所もの悲し |
長 |
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12枚の 衣装を身にまとうのに一 枚30秒として6分か、意外と早いな。 |
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20 |
暑ッつい暑ッつい暑ッつ い暑い |
山 |
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き ぬぎぬな
んて言ってられるような暑さではないですよお。 |
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21 |
雲去りてLOVE・ LOVE・LOVEの星まつり |
良 |
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暑いはず です。今日は七夕。年に一度の逢瀬を楽しむ カップルがいたんです。 |
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22 |
心に秘めた願いよ届 け |
紅 |
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ずっと ずっと大好きなリンドグレーンの故郷を訪れた いと願っていた。それが、今夏とうとう実現する。 |
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23 |
あなうれし頼みの 薔薇ぞ夢醒める |
山 |
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驢馬に変身させられたルキウス
は、運良く薔薇にありつき、人間に戻ることができた。 |
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24 |
いつしか緩む後門の禁 |
銀 |
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青少年時 代に薔薇族に目覚めると、長い年月の末に は、腐敗したパッキンのようになってしまう。 |
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25 |
詰め襟とセーラー服とお下げ髪 |
紅 |
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中学生だけがなぜあのように髪の
長さまでとやかくいわれるような規則と前近代的な洋服に縛られなくちゃならないんだろうか。昔に比べ高校では緩やか
になったのに。 |
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26 |
解き放されてやっと知る自由 |
良 |
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決まりを忠実に守る子だった私
は、不自由であることにも気づかずにいた愚か者だったことよ。 |
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27 |
言葉あり歌あり飯あり屋形船 |
山 |
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前句の自由観は伸びやかさがない ような気がする。 |
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28 |
暇もありて落ち鮎 を釣る |
少 |
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大らかに太公望といこう。 |
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29(月) |
寝待月ほろ酔いつ更けぽっかりと |
長 |
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鮎の塩焼 きでいっぱいやりながら 良い気分でいるうちに夜が更けていくひなびた宿。 |
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30 |
きつつきつつき起 こされし朝 |
良 |
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酔いつぶれて眠ってしまった翌早
朝に、山小屋をつつくきつつきに起こされ辛い。 |
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(名残折裏) |
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31 |
カラ衣不在の妻の言い訳か |
銀 |
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それにしても山小屋の木をつつく
ようなキツツキがいるだろうか。 |
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32 |
不倫呆けして車に撥ねらる |
少 |
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「失楽園症候群」とかいう流行病
(はやりやまい)を日本の熟年に蔓延させようとしている芸能マスコミなる集団がある。 |
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33 |
風鈴にどしゃりの 雨雲疾し |
長 |
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天空、にわかに暗雲たちこめ、風
鈴の短冊がきりきり舞いするほどの一時の夏嵐。 |
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34 |
Watch your step! 土筆がいるよ |
山 |
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どしゃぶり→足下→春・土筆 タ
ケノコのような連想はいけませんですか。 |
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35(花) |
ひらひらとテニスコートにも花便り |
良 |
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さあ、テニスのあとは花見酒だ。 これぞ至福の一日 |
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36 |
有明の夢吉祥天女 |
長 |
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<1997年6月〜8月> |
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