居酒屋歌仙 その1     

<居 酒 屋 歌 仙>

 

小 六   山 八訪   長者巻    英世  銀次郎  モグラ 


  

発句

乱気流をぬけし機内の新茶かな

小 六

脇句

 ゆれる思いを琥珀も笑う

山八訪

第三

盃の中に花あり涙あり

 かそけき囀りむらさきの空

長者巻

5(月)

この街で口げんかもしたっけ月ひとり

 ひび割れし仲接着は不可

(初折裏)



夕暮れの車窓に揺れる妻の顔

英 世

 おそれを知らぬ子らをうらやむ

じめじめと迷う彷徨心模様

10

 想い異なる蛍の光

11

ファーブルとシートン媒酌はがいじめ

12

 行間に唖然怒り惑い笑う

13

ぽっかりとあばたのほほえみ人なごむ

14

 わたしはかもめ港は何処

15

皆集う静かな入江あとわずか

16

 港のマリーブラディマリー

17(花)

花々のはざまにかすむ蝶々のなげき

18

 夜明けの涙ペルセウスシャワー

(名残折表)



19

浴室のシャワーの音に君の影

銀次郎

20

 置きすてられた天の羽衣

21

しなやかな枝ぶりのハンガー人影もなく

22

 松ケ根生える島に咲く藤

23

川風に流れる甚句大銀杏

 

24

 岩影に咲くりえのひと花

25

ふんどしや万朶の桜か襟の色

26

 紅おとしたる朝のさみしさ

27

おくれ髪白い指先ため息の音

28

 板場のつぶやきアルシンドが走る

29

中秋にアデランスの雲風に消え

30

 流れる紫煙にすがる脂粉

(名残折裏)



31

よどみ合う意志なき群れに重い朝

32

 村の日の出にたじろぐ白岩

33

かわたれに疲れた顔となごむ声

モグラ

34

 無言の朝餉いろっぽい女

35(花)

花暦昨日の娘と今日の女

36

 一句ひねって三杯の焼酎




 

<〜1993年8月>