エマノン歌仙 その2      

<波 の 花 の 巻>

 

少艶  長者巻  紅蓮  良流娯  嗤己 山八訪  天遊  銀次郎


 

 発句

越の路や波の花咲く寒さかな

少  艶


冬の日 本海は厳しい。岩に砕けた波が吹雪きかと見紛うくらい白い花のように飛び交う。

脇句

我が息白しじんわり懐炉

長者巻


風強く吐 く息が白く、耳が痛い。ポケットのホッカイ ロが暖かくなってきた。早く鱈ちりでも食べたい。

第三

麦畑黄のあざやかに照り映えて

紅  蓮


美術館 で、ふるえるほど寒々しい日本画の世界から、 印象派の世界へ。 色調あざやかなゴッホの絵を見る。

大作祝う山荘開き

良流娯


退職後 の楽しみにと建てた山荘に、初めて泊まる叔父から焼酎で上機嫌の電話がきた

5(月)

月明かり影と話しつ帰り来る

嗤  己


影を供 にして秋深い深更、たまにはいろいろ考えるのもいいかなア・・

玻璃の器に一輪の菊

山八訪


いろいろ 考えるのにふさわしい透明な秋。

(初折裏)

ありがたし山は粧い夫笑う 


瑠璃も 玻璃も何となく絹の道を思わせる。キルギスの人質も開放され、何よりでした。

大雨去りてまた夏に会う


台風一 過のような美しい朝だったけど、昼間はまた夏のようで、子どもたちはプール化した砂場で泥まみれになっていた。

海人に惚れて今では大和嫁


台風を くぐり抜けると、南の島は夏だった。竹富島で漁師と出会 い 大和嫁(本土から来たお嫁さん)になった友が いる。

10

作る弁当三段重ね


いろい ろ食べて欲しくてこんなになってしまいました。あなた 早く帰ってきて。

11

相撲取り雪駄鳴らせて髷香る


弁当なら 相撲でしょう

12

菊正ちびり鴨南すする 


関取と いえば日本酒でしょう。そば屋でお酒を楽しむのが今流行り。

13(月)

擂半にめ組駆け行く 寒の月


一日の 労働を終えて、そば屋でちびりちびりと至福の時を過ごしているのは、鯔背(いなせ)なお兄さん。鯔背といえば、 印半 纏、半被姿、というわけで…。

14

うえのおくやまユーいちごっこ


越後人 は「イ」と「エ」の区別ができない。うゑのおくやまけふ こえてを「上野、奥山」と嗤ったもの。「you越後っ こ」

15

新 婚のストロベリーの茶碗かな


新婚夫 婦がワイルドストロベリーのティーカップで紅茶を飲む様子。

16

ペアールックで春の野に出で 


ストロ ベリーの茶碗で紅茶を飲むようなカップルは、ペアールックが好みかも。

17(花)

かけまわる子らのひたいに花一片


花吹雪 の野でおにごっこをしている子どもたちがいる。汗がにじんでいるのだろうか。額に花びらがついている。

18

悪者も雪解け還暦を過ぎ


子どもな んて皆ワルだ。宗匠のことではない。





 

(名残折表)



 

19

越後屋も小僧お供に植木市


裏稼業も 忘れ。この後小僧を撒い たのかどうかは知りません。

20

寝ても覚めてもとろとろとろと 


『小僧の 神様』の小僧は、あのピ ンク色のとろりとした鮪のにぎりを見て、生唾をごくりと飲み込んだのでした。

21

人減らしただそれだけのろくでなし


寝ても覚 めても再建再建、中身は何も無いのに。とり あえず 神 様は不在だ。

22

諸行無常や会議は踊る


会議会議 ずくめで業績があがる筈がない。窓をあけて 外へ出よう。

23

なやみ消えアッチチアッチチとかれ出す


踊りとい えば GOLD FINGER’99

24

Y2Kも難なく越えて


大騒ぎし た割には、何も起こらず元旦を迎え、人々は その後あちこちに繰り出したということですが…

25

チョモランママッキンリーも人を呑み


難なく越 え・・・はしなかった。

26

賽の河原に蝉しぐれ降る




27

痛ましき 子らにささげる鎮魂歌




28

カウンターテナー空に響きて




29(月)

消燈の窓辺に高し冬の月 


満州にて 詠める。中国東北部(瀋陽・哈爾賓)に行っ て 餃子を食してきました。

30

漂うにらの香燃えろよペチカ


韻をふん だつもり。

(名残折裏)

31

海越えてシベリア越えていざ巴里へ 


情熱の詩 人与謝野晶子は鉄幹を追いかけ、シベリア 鉄道で巴里へ行く。

32

なつかしき名におもいふたたび


遂に追い かけなかった、昔好きだった人の名をふと目 にし、あの頃の思いが蘇ってきた。

33

球春を肴に弾む縄のれん


イチロー は稲尾を打てるか、松坂は張本を抑えられる か。

34

箸置き代わり蕨ひとすじ




35(花)

里山に花の雲わき人集う




36

洛中洛外屏風絵の中

 

 <1998年11 月〜2000年4月>